2.1 送出国における医療現場の疲弊と倫理的ジレンマの実態
看護人材の国際移動が送出国の保健医療体制に及ぼす影響を分析すると、熟練専門職の国外流出が医療供給能力と倫理的実践の双方に深刻な歪みをもたらしている実態が浮き彫りとなる。インドにおける看護職の移動動態を検証した知見では、医療従事者の確保能力が著しく低い国や地域ほど人々の健康アウトカムが悪化するという構造的連鎖が指摘されている (2015)。このような人材流出は単なる頭脳流出(Brain Drain)の現象にとどまらず、送出国に残された医療現場および教育基盤に対して不可逆的な過重負荷を強いる結果となる。特にネパールの看護管理者を対象とした実態研究では、慢性的な人員不足と限られた資源配分の制約下で質の高いケアを維持しようとする過程において、最前線のリーダー層が深刻なモラルディストレスや倫理的葛藤に絶えず直面していることが報告されている (2025)。個人のキャリア形成に伴う国外志向と、自国の地域医療提供を維持すべき責務との間で生じる心理的・制度的摩擦は、送出国の医療体制を内側から疲弊させる主要因である。したがって、看護師の国際移住問題は、個人の移動の自由に帰着させるのではなく、グローバルヘルスにおける構造的不平等を是正する倫理的採用規範と労働環境の抜本的改善の観点から包括的に分析される必要がある。