5.1 規律付けメカニズムとしての株主還元の有効性
コーポレートガバナンス改革に伴う統治機構の刷新は、経営陣に対する監視機能を強化し、余剰資金の適切な分配を促す契機となる一方で、株主還元政策の実質的な決定要因については多面的な解釈が存在する。エージェンシー理論における代替仮説によれば、株主権利の保護が脆弱な環境下にある企業ほど、経営者の私的流用懸念を払拭し市場の信頼を担保するために積極的な配当支払いを行う傾向が観察される[2]。これに対し、株主権利が法制度的に十分に保障されている状況下では、自社株買いなどの柔軟な手法が機動的に選択される傾向があり、統治制度の強度によって最適な還元形態が異なることが示唆される[5]。さらに、日本をはじめとする市場構造においては、企業間相互保有の縮小や株主構成の多様化がペイアウト方針の再編を促す決定的な契機となっており[1]、法人株主や機関投資家の税制上の選好も還元手段の選択に直接的な制約を課している[3]。しかしながら、現行の改革論議は形式的な取締役会構成や還元総額の拡大に焦点を当てる傾向が強く、内部留保の有効活用や長期的な研究開発投資とのトレードオフに関する統合的な評価は十分とはいえない。したがって、株主還元の強化が単なる短期的な市場迎合にとどまらず、持続的な規律付けとして真に機能するための統治設計をいかに構築するかが重要な研究課題として残されている。