6. 考察:政策的含意と今後の課題
大都市圏における教育機会の空間的偏在と世帯の移住行動の関係性は、都市構造の持続可能性を議論する上で極めて重要な論点である。都市部への人口移動と社会構造の変容を論じた先行研究 (White, 1984) では、大都市への移動が政治的および社会的な階層分化を伴うことが示唆されてきた。これに対し、日本の教育経験の変容に着目する立場 (Okano, 2017) は、教育システムの制度的枠組みが個人の進路選択や地域間移動に多大な質的影響を与えることを強調している。しかしながら、これら既存の議論は教育機会の格差が都市空間の分断へ至る動態的プロセスを十分に接続できていないという研究上の空白が残されている。本分析においても、大都市圏内の特定地域における教育資源の偏在が選択的移住を誘発し、都市構造の固定化を加速させることが理論的に示唆される。ただし、本論の検討は大都市圏のマクロな動態を中心としており、個別の世帯における意思決定プロセスの微視的な差異や非大都市圏からの流出動態を包括的に網羅できていない点に方法論的限界が存在する。